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透析治療を考えている方へ

腎臓の働き

腎臓の最も重要な役割は血液を濾過して尿を作り、これを体の外に排泄することです。腎臓は、食事や飲水などによって体の中にたまる余分な水分や酸・電解質、老廃物を尿として体の外に排泄し、必要なものは再吸収して体内に留め、体内を一定の環境に維持しています。
また、腎臓は血圧を調節するホルモンや赤血球を作る造血ホルモンを出しており、血圧のバランスをとったり、貧血を防いだりしています。さらに、カルシウムを吸収して骨をつくるビタミンDを活性化して骨の量や質を維持し、カルシウムバランスを維持する役割もになっています。
腎臓の働きが低下して腎不全になってくると、浮腫、高血圧、肺水腫、アシドーシス(体に酸がたまる)、高カリウム血症、尿毒症、食欲低下、嘔吐、貧血、低カルシウム血症などが起こってきます。

透析が必要になる時

慢性腎臓病(CKD)という言葉をご存知でしょうか?慢性腎臓病とは3ヶ月以上持続する尿異常(蛋白尿、血尿)、腎形態異常、または腎機能を表す数値であるeGFR(血液検査のクレアチニンの数値から推測する式があります)が60(ml/分/1.73m2)未満までに低下した状態を言います。腎機能が低下し、eGFRが15 (ml/分/1.73m2)をきってくると、腎代替療法が必要になってきます。
つまり高度な腎機能低下によって、尿毒症や高カリウム血症、心不全や肺水腫、高度な貧血などの命の危険を伴ってくる状態が生じる、もしくはその一歩手前の状態になってくると、透析や腎移植などの治療をする必要が出てきます。

透析療法とは

腎臓に代わって人工的に体の血液を浄化する働きを代行する方法が透析療法です。透析療法によって生命を維持することができ、ある程度までは普通に生活することが可能になります。しかし、透析療法は腎機能を回復させる治療法ではなく、腎臓の機能を完全に補うものではありません。したがって、腎移植を受ける場合を除いて生涯継続する必要があり、長く続けていくと合併症も生じてきます。
透析には血液透析と腹膜透析の2種類があります。

血液透析とは

血液の体外循環により人工腎臓(透析器)に血液を通して、尿毒素や余分な水分を除去します。
血液透析は、透析を行っている医療機関に週3回通院し、1回4時間から5時間かけて行われるのが一般的です。
血液透析を行うには、1分間に200ミリリットル程度の血液を透析器に送り込み、それを循環させる必要があるため、血流量が確保できる太い血管が必要となります。そこで、手首の近くの腕の動脈と静脈を手術でつなぎ合わせることによって血管を太くします。これを内シャントといいます。手術後最低2週間から4週間ぐらいたってから使用することが望ましいことから、可能であれば計画的に手術を行います。内シャントには狭窄(細くなる)、閉塞(つまる)、瘤の形成(血管のこぶ)、感染などの合併症があり、再手術が必要となることもあります。一般的な内シャントが作れない場合は、人工血管を使用した内シャント、カテーテルの使用などにより血液透析を行います。

腹膜透析とは

腹腔内に直接透析液を注入し、一定時間貯留している間に自分のおなかにある腹膜を介して血中の尿毒素、水分や塩分を透析液に移動させます。十分に移動した時点で透析液を体外に取り出すことにより血液浄化が行われます。腹膜透析では、手術により透析液の出し入れをするためのカテーテル(チューブ)を腹腔内に埋め込む必要があります。カテーテルを介した腹膜炎、カテーテル出口部・トンネル感染などの感染に注意が必要です。

腎移植とは

腎移植には親族から腎臓を提供していただく生体腎移植と、亡くなった方から腎臓を提供していただく献腎移植とがあります。健康な体にメスを入れる生体腎移植ではなく、亡くなった方から提供していただく献腎移植の方が望ましいですが、残念ながら本邦では献腎移植が少なく、やむなく行われている生体腎移植が全体数の約9割を占めています。移植後も免疫抑制剤の内服や定期的な通院は必要です。

腎不全・透析の合併症

貧血

腎不全では、腎臓から分泌される造血ホルモンであるエリスロポエチンが十分に分泌されないこと、尿毒素により赤血球の寿命が短くなることにより、腎性貧血が起こります。また腎不全の状態では腸管からの鉄分の吸収が悪かったり、透析の操作や採血などにより僅かながら少しずつ失血したりするため、鉄分が不足しやすく鉄欠乏性貧血にもなりやすくなっています。腎性貧血や鉄欠乏性貧血は、注射や内服薬で治療を行います。これ以外にも消化管出血や栄養素の不足、ミネラルやビタミンの不足など様々な原因で貧血は起こりやすくなっています。

高血圧

腎臓からの余分な塩分や水分の排出ができないため、水分や塩分が過剰になり溜まってくると高血圧となります。また血圧を調整するホルモンのバランスが崩れたり、動脈硬化が強かったり、自律神経障害を伴ったりするため、高血圧になりやすくなっています。

心血管合併症、脳血管障害、末梢動脈疾患などの血管合併症

腎不全では尿毒素や、カルシウム・リン代謝異常などによって、動脈硬化が進みやすくなります。また、元々高血圧を長く患っている方、糖尿病のある方、コレステロールが高い方も多く、それらもあいまって、心臓や脳の血管、足の血管など、あらゆる血管に動脈硬化が進み、血管が細くなったり詰まったりすることが少なくありません。心臓では狭心症や心筋梗塞、脳では脳梗塞や脳出血、足では閉塞性動脈硬化症による潰瘍や壊死(末梢動脈疾患)、腸を栄養している血管に起こると虚血性腸炎などを引き起こすことがあります。高血圧や糖尿病のある方は、眼底の血管の合併症にも注意が必要です。

心不全・肺水腫

水分や塩分の過剰な状態や、虚血性心疾患や弁膜症などの影響による心機能低下があると、心不全を引き起こすことがあります。ひどくなると、肺にも水が溜まり肺水腫を起します。水分や塩分の過剰な摂取は控え、心臓に疾患がある場合は可能な範囲で治療が必要です。心不全は透析患者の死因の1位でもあります。

不整脈

心臓自体の障害はもちろん、カリウムやカルシウム、マグネシウムなどの電解質、透析での除水による循環血流量の減少の影響など、様々な原因で不整脈が起こりやすくなっています。

血圧低下

血液透析では体内に溜まった余分な水分を短時間で除去する治療であることから、程度の差はありますが、特に透析中や透析後に血圧低下が起こりやすくなります。除水による循環血液量の減少に加え、血管収縮能の低下、心機能障害が原因とされています。血圧低下を起こしやすい状況として、過剰な水分摂取(水分による体重増加が多い)、高齢、糖尿病、低栄養、貧血、心機能障害があり、ときに血圧の薬の影響も考慮しないといけない場合があります。

慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常(CKD-MBD)

腎不全の状態では、腎臓からのリン排泄低下による高リン血症、活性型ビタミンDの活性化障害による低カルシウム血症などにより副甲状腺ホルモンの分泌が増加します。副甲状腺ホルモンの増加により、骨から多量のリン・カルシウムが溶け出すと、骨がもろくなったり、骨折しやすくなったり、骨・関節痛が出てきたりします。また、血中に増加したリン・カルシウムは血管などの柔らかい組織に沈着して、石灰化し、動脈硬化をいっそう進めてしまいます。心臓弁に沈着すると弁膜症の原因にもなることがあり、皮下組織に沈着しすると異所性石灰化を起こすこともあります。動脈硬化は、高血圧や、前述の血管合併症を引き起こすことにつながります。そしてこれらは予後を悪くする大きな要因です。カルシウム・リン・副甲状腺ホルモンは食事療法、透析療法、適切な薬剤の調整などにより、目標値に保つことが大切です。
また、腎不全では、骨密度が低下しやすく、骨質の低下があり、骨折率も高いことが知られています。普段より適度な栄養をとり運動することも重要です。

透析アミロイド症

透析期間が長くなると、β2ミクログロブリンというタンパクから形成されるアミロイドという物質が、全身の骨・関節や内臓に沈着して起こります。手首の根元に沈着すると手指の痛みや痺れなどがでる手根管症候群や、指を曲げる腱に沈着するとバネ指になります。それ以外の関節や骨にも沈着し、脊椎に沈着すると破壊性脊椎関節症を起こすこともあります。

悪性腫瘍

透析を行っている人では、悪性腫瘍の発生率が高いと言われています。特に傷んだ腎臓に生じやすい腎癌をはじめ、胃癌や大腸癌、肺癌など、さまざまな癌の発生率が高くなっています。腎不全による発癌物質の蓄積や免疫力の低下が原因とされています。早期発見、早期治療が重要です。

感染症

腎不全では、感染に対する抵抗力が低下しており、感染症にかかる率が高くなり、また感染症で命を落とす確率も高くなっています。風邪をはじめ、シャント部の感染、尿路感染、肺炎、肝炎、腸炎など様々な感染症があります。新型コロナウイルス感染症でも、感染した場合の致死率は高いことが報告されています。感染症は透析患者の死因第2位であり、感染症の予防を心がけ、十分な栄養や体力をつけておくことが大切です。

かゆみ

腎不全では、感染に対する抵抗力が低下しており、感染症にかかる率が高くなり、また感染症で命を落とす確率尿毒素や、カルシウムやリンの影響、汗が出にくくなり皮膚が乾燥すること、また薬物の影響やアレルギーなどによって、痒みが起きやすくなっています。

便秘

水分制限やカリウム制限による繊維質の不足、透析による除水、腸内細菌叢の乱れ、高齢化や運動不足などにより便秘が起こりやすくなります。その他にも薬剤の影響や、糖尿病性胃腸障害による影響もあります。

筋痙攣

血液透析中や、透析後に足がつったり、筋肉がこわばったりすることがあります。除水による循環血液量の減少や、透析によるミネラルの変化などにより起こりやすくなります。特に急激に、あるいは多量に除水をすると起こしやすくなるので、体重増加が多くならないようにしましょう。

腹膜透析特有の合併症

腹膜炎、腹膜透析カテーテル出口部・皮下トンネル感染症、腹膜透析カテーテルの機能不全、被嚢性腹膜硬化症などがあります。